手と表情が紡ぐ「ことば」 手話サークル「やまびこ」の30年
手話サークル「やまびこ」
手話とは、手や指の動き、表情や体の動きを使って気持ちや言葉を伝える「目で見ることば」。耳が聞こえないろう者の方たちを中心に使われてきた「ことば」です。
そんな手話を通じて、聞こえない人と聞こえる人がともに集う場所が真庭市にあります。約30年の歴史を持つ、手話サークル「やまびこ」。毎週木曜日の19時30分から、手話を用いた交流をしています。
今回は、代表の岩本朝美さんはじめ、参加されている耳の聞こえない方、聞こえる方、みなさんにお話をお伺いしました。
本文の前にお伝えしておきたいのは、聞こえない方も聞こえる方も良い意味で遠慮がなく、終始わきあいあい(ときにはツッコんだり、ツッコまれたりしながら)とした雰囲気だったということです。 年齢も幅広く、手話に興味を持つ小学2年生から仕事終わりの20代、70代の方など、皆さんがまっすぐ「手話を見つめて」交流されている様子が印象的でした。

手話サークルの活動について教えてください
岩本朝美さん: 毎週木曜日の夜に集まって、手話を学んだり、みんなでゲームをしたり、いろいろな話題でおしゃべりをしたりしています。手話でやり取りをしていると、あちこちに話が飛んでいくんですが、それがまた楽しくて。
先日は、東京で開催されたデフリンピック(国際的な聞こえない・聞こえにくい人のためのオリンピック)の話で盛り上がりました。 「オリンピックって手話でこう表しますよ」と新しい手話を学んだりもします。決められたカリキュラムがあるわけではなく、みんなで話し合うことそのものが大切だと思っています。 いろんな考え方の人が集まって「へえ、そうなんだ」と思う、そのやりとりが面白いんです。
手話サークルに参加したきっかけを教えてください
参加者さんA: 真庭市が主催する「手話養成講座」を受けた際、先生から「講座で終わりにするんじゃなくて、続けてほしい」と誘っていただいたんです。それがきっかけでサークルに来ることになりました。
岩本朝美さん: 私は、じつは叔父と従兄弟がろう者なんです。子どもの頃から、普通に話しかけても答えが返ってこなくて、「なんでかな」と不思議に思っていたんですね。 大きくなってからはじめて、耳が聞こえないということがわかって。その叔父はとても優しい人で、でも言葉では話せなかった。
従兄弟の方も話すことができず、親戚が集まっても、ぽつんとしていて。それで「手話を覚えて、つながりたい、話がしたい」と思ったのが始まりです。

はじめて参加したときのことを教えてください
参加者さんC: 最初に来たときは、顔を知っている人もいましたけど、あまり話したことがない人ばかりで。とにかく緊張して、おとなしくしていました。何回か通うにつれてだんだん慣れてきて、今はもう全然緊張しないです。楽しい場所です。
手話はどうやって覚えられましたか?
参加者さんD(聞こえにくい方): 私は28歳まで手話を知らなかったんです。普通の学校に通っていたので、声でやり取りしていて、手話は必要ないと思っていました。 でも社会に出ると、「話せるのに、聞こえない」というのがなかなか不便で。「話しているのだから聞こえている」と思われるケースが多く、コミュニケーションに壁がありました。それで各地域で開催されている「手話講座」に参加して覚えました。
参加者さんE: 私は、やっぱり聞こえない方に会って、見て覚えるというか。「盗む」という感じですね(笑)。 とにかく、「お話したい」という気持ちが大事だと思います。こちらから手話でコミュニケーションを取ろうとしたら、わからない手話があっても、ろう者の方がちゃんと教えてくださるので。実際に会って話すことが一番の勉強だと思います。
参加者さんF: 手話を覚えていく中で気づいたのは、手話って日本語とはまったく違う言語だということです。最初は「日本語を手で表現すればいい」くらいに思っていたんですが、文法も語順も全然違う。 そのことを理解するまでに、かなり時間がかかりました。今はもう講座でも最初に「日本語とは全く違う言語ですよ」と説明してくれるので、入口でわかるようになっています。

手話サークルに参加するようになって、生活の中で変化はありましたか?
参加者さんG: 手話を通じて聞こえない人たちと繋がってしまったので、もう足が抜けなくなってしまいました(笑)。それが今も続いている理由だと思います。
参加者さんH: 私の父親がこのサークルに通っていたんです。父は毎週木曜日の「手話サークル」をとても楽しみにしていて、晩ごはんをさっと済ませて出かけていく。私はそんな父親を「夜なのにどこかへ出かけていくなんて」とむしろ反対とさえ思っていたんです。 でもその後、父が亡くなって私もサークルに参加するようになって。だんだん楽しかったっていう父の気持ちがわかるようになってきました。ここって居場所なんですよね。
活動のなかで大切にされていることはありますか?
岩本朝美さん: ろう者の方と一緒に考えることを大切にしています。 私たち聞こえるものが一方的に「理解する」「交流する」だけではなくて、いま耳の聞こえない人たちが何を求めているのか、そのためにはどうすればいいのか。それを、ろう者の方と一緒に考えながら活動していきたいと思っています。
聞こえない・聞こえるよりも、人と人が繋がったのだから、もう言語の壁は関係ないんですよね。人同士なんだと思っています。
活動のなかで印象深かったエピソードを教えてください
参加者さん: 以前、聞こえにくい方がホテルを予約しようとしたら、「聞こえない」ことを理由に断られたという出来事が起こりました。 それを受けて、サークルのメンバーでいろんな旅館やホテルに「こういうことが起きているんですが、どう思いますか?」と質問状を送って。多くの宿泊施設から「障がいを理由にお断りすることはありません」という回答をいただいたんですね。
それがやがて、断った宿泊施設にも届いたみたいで、謝罪の連絡と「宿泊できます」という回答をいただいて。このサークルが社会に働きかけたことのひとつだったかなと思います。
言われて嬉しかった言葉を教えてください
岩本朝美さん: 耳の聞こえる参加者さんから「理解できました」というのが一番嬉しかったですね。ろう者というのは、見た目ではわからないんです。視覚障がいや身体障がいの場合、パッと見てわかることが多いんですけど、耳が聞こえないというのは見た目ではわからない。
だからこその苦労や生きづらさがあって。そういう事実に触れて、「ろう者の方のことが理解できた気がします」と言ってもらえるのが本当に嬉しいんです。

これからの展望を教えてください
岩本朝美さん: 30年間続けてこられたのは、聞こえない人たちと出会って、繋がってしまったから(笑)。ろう者の皆さんの人間的な魅力があるから続いているんだと思います。
これからは「交流する」「理解する」という段階をさらに進めて、ろう者が何を求めているのか、どうすれば一緒に暮らしやすい社会になるのか。 ろう者の方たちとより一層、一緒に考えながら行動していきたいと思っています。みんなが楽しく、年を重ねても通えるような場所であり続けること。それがこれからの手話サークル「やまびこ」の目標です。
取材・編集:甲田智之

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