月に一度の「ただいま」の場所へ
ふれあいサロン高下
「出かける場所がない」「話せる人がいない」――。 高齢化が進む農村部では、日々の暮らしの中にそんな声が静かに積み重なっています。
真庭市の北房地域「高下(こうげ)」では、歩いて通える身近な場所に住民が気軽に集い、おしゃべりや食事をともにする「ふれあいサロン」が地域の支えとなっています。 こうしたサロンは、楽しみや生きがいをつくるだけでなく、参加者同士が互いの様子を気にかける「見守り」の場にもなっています。
今回、お話をうかがったのは、約20年にわたって「ふれあいサロン高下」を運営してきた土井章代さん。 地域に住む高齢者のために手料理をふるまい、毎回手書きのチラシをつくり、足の悪い人には迎えに行く。そんな温かな活動が、どのように生まれ、どのように続いてきたのか。話を聞きました。

そもそも、このサロンはどのように始まったのですか?
もう20年ぐらい前のことです。当時、このあたりの65歳以上のお年寄りが、市役所の2階にある施設に5人ぐらいで集まっていたんですよ。ところが年を取って身体も少しずつ弱くなってきて、そこへ通うことも難しくなった。もう集まる場所がない、ということになったんです。 「それなら、集まれる場をつくりましょうか」ということで始まったのが、このサロンです。はじめは、ここの公会堂に5、6人が集まって、一緒に食事をするところからでした。そのうち、だんだん参加者さんの人数が増えていきました。
どんな活動をされてきたのでしょうか?
手芸をしたり、レクリエーションをしたり、いろんなことをしてきました。千羽鶴を折ったり、季節ごとに何かを一緒につくったり。公民館に飾ってある作品はみんながつくってきたものなんです。 吉備国際大学の学生さんに来てもらったこともありました。手品をしてもらったり、似顔絵を描いてもらったり。学生さんとお年寄りって、なんとも相性がいいんですよね。年寄りの人はとても喜ばれて。
旧水田小学校の子どもたちが社会勉強に来てくれたこともありました。踊りや歌を楽しんだこともありましたし、本当にいろんなことをしてきた。何をしたかわからないぐらいです(笑)。

毎回、どんな流れで会を開いているんですか?
月に1回、集まって、一緒にお昼ごはんを食べて、午後3時ごろまで世間話をして帰るという感じです。田んぼのこと、季節の話題、昔のこと。話すことは尽きないんですよね。 食事は私たち運営で用意するんですが、みなさん家で作った野菜や米を持ち寄ってくれるので、それが材料になります。お魚やお肉だけ少し買うぐらいで、参加費は100円。社会福祉協議会さんから1人200円の補助もいただいているので、なんとかやっていけています。
毎回、チラシも手づくりしています。「何日の何時から、今日はビンゴゲームをします」と書いて、みなさんに配るんです。これが私の楽しみでもあって。口で言うだけじゃわからないでしょう、ご年配には(笑)。だからちゃんと書いて渡すようにしています。
来られる方は何名ぐらいですか?
今は15、6名です。ほとんどが家にいる人なので、体調が良ければ全員が来られます。 最初のころに来られていた8人の方は、みなさんもう亡くなられたんですけどね。今は次の世代の方、といっても70歳以上の「若い年寄り」が中心になっています(笑)。 定年退職された男性が来られることも増えましたね。もともとは奥さんのほうが多かったんですけど、男性にも来てもらおうと思っていたら、いまは男性のほうが多くて。
来られない方を迎えに行くこともありました。最初は「行きたくない」と言っていた方でも、一度来たら毎回楽しみにされるようになって。今は一人暮らしの方が3人おられますが、この会がとても楽しみなようです。

ちなみに、コロナ禍のときはどうされたのですか?
コロナの時も、休みなく続けました。一度だけ、社協さんから「お弁当を持ってお宅を訪問してもいい」と言っていただいたので、手づくりのお弁当を各家庭に配りに行ったことがあります。持って行ったら、もう大変喜んでもらえて。 本当は「どうしようか、休みますか?」と参加者の方に聞いたこともあるんです。そしたら「何かしてほしい」という声が返ってきた。食事だけでもいい、集まりたい、って。だから続けることにしたんです。おかげさまで、コロナになった方は誰もいませんでしたよ。
この場が、ご年配の方のどんな役に立っていると感じますか?
よそへ出かけるとなると、着替えをしないといけない、身なりを整えないといけないと気になるでしょう。でもここは「そのままで来てください」と言っています。エプロンのままでいい。服を着替えなくていい。だからこそ気軽に来られるんだと思います。 集まる場所がなかった方が、月に1回でも「ここへ行く日」ができる。それだけで生活にメリハリが生まれる。食事もして世間話もして、笑って帰っていただける。それが心の拠り所になっているんだと思います。
一人で家にいたら、なかなか野菜もとれないじゃないですか。持ち寄った野菜を料理して食べて、余った分はお土産に持って帰ってもらう。栄養面でも少し役に立てているかな、と思っています。
活動を続けてこられた原動力は何でしょう?
私はここの出身なので、地域のご年配の方はみんな知っている人たちなんです。子どもの頃から顔を知っている。だから自然と、「ちょっと足の悪い人がいる」「引っ張ってでも連れてきたい」という気持ちになるんです。 大喜びしてもらえるから、こちらも嬉しくなる。それだけです。「今月はどんな料理をつくろうか」「献立はどうしようか」と運営の3人で考えるのが楽しみになっています。集まってから「この野菜が余っとるから、これも入れよう」ということも多くて(笑)。それがまたいいんですよね。

これからの展開を教えてください
もうここまで来たら、続けていくしかないですよ(笑)。20年間ずっとやってきて、もうすっかり習慣になっていますから。参加してくださる方も毎月楽しみにしてくださっているし。 これからは、男性にも食事の準備を手伝ってもらって、一緒につくって食べようかという話も出ています。話すだけでなく、食べることがあるからこそ続いてきたと思っているので、それは大切にしたい。
私たちも年を取りましたけど、地域のお年寄りと話していると、自分たちが年をとったらどうなるのかな、とも考えます。でもそれも楽しみで。一人暮らしの方を見回ったり、みんなで仲良くしたり、この部落に住む者として、できることを続けていきたいと思っています。
取材・編集:甲田智之

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