「4つの対話アイテム」で育む、子どもたちの「考えるチカラ」 地域おこしに通じる真庭市立中和小学校の授業
真庭市立中和小学校
真庭市北部の蒜山(ひるぜん)地域にある「中和(ちゅうか)小学校」。 全校児童20名ほどのこの小さな学校で、いま「4つの対話アイテム」を軸にした授業が行われています。地域の大人たちもその「対話アイテム」に触れ、「これこそ地域づくりに必要」と言うほど。
「4つの対話アイテム」とは何か。 そして、それによって子どもたちがどう変化したのか。
学校運営をサポートする吉野奈保子さんに、「4つの対話アイテム」を軸にした取り組みについて伺いました。

中和小学校はどのような小学校ですか?
中和小学校の大きな特徴は、「地域との深い関わり」です。2016年頃から「真庭なりわい塾(ローカルからこれからの生き方・働き方を探求する塾)」が中和地域で始まり、そのなかで中和小学校の存続が地域の最優先課題として浮かび上がりました。 児童の数が減っていく。当然保護者も減っていく。でも「小学校の存続」という課題を共有するなかで、保護者から「子どもが卒業しても中和小学校を応援したい」と声が上がり、学校と地域が一体となって子どもたちを育てていく環境が生まれます。
そのひとつが「中和をいきいき元気にすること」を目的とした授業「中和いきいき学習科」です。低学年では「中和いきいき探検隊」、中学年は「中和いきいき新聞記者」、高学年は「中和いきいきプロデューサー」として、中和の「もの・こと・人」を対象としながら地域と密接に関わる探究活動を展開しています。

なぜ「4つの対話アイテム」が生まれたのですか?
当時の校長先生から、この授業をどう深めていくか相談を受けました。「地域の方がこれだけ応援してくださっている小学校は珍しい。地域の方のおかげで、すでに〈ふるさと教育〉ができている。これをもっと子どもたちの〈学び〉に繋げたい」そうしてお声がけいただいたんです。
私は先進的な取り組みをしている西粟倉小学校の教員(当時)だった鳥越先生をお繋ぎしました。その鳥越先生が強調されていたのが「対話」の重要性でした。
多くの小学校では「子どもたちが発表して感想を言って終わり」という授業でした。言いっぱなしなので、ほかの子の発表を聞いて疑問を持ったり、話を深めたりすることができません。 対話をすることで話が深まっていくのに。対話がないために「探究」の科目にも関わらず、探究することができていなかったんですね。
では一体、どうすれば対話が生まれるのか。最初は「おたずね(疑問を持つ・質問をする)」が大切だと思っていたのですが、低学年にとって質問を考えるのはなかなか難しい。「おたずね」つまり「疑問を持つ」というのは、大学の研究にも通じるぐらいのことですから。
「おたずね」が難しいなら、何から始めれば良いのか。いろいろ考え、そもそも「安心して発言」ができたり、お互い「思いやりの心」を持ったり、まず安心できるような雰囲気が教室のなかにないと、自分の意見って言い出せないですよね。 だから教室の雰囲気が良くなって、自分の意見が言いやすい空気感をつくる「いいとこ見っけ」から始めようという結論に至りました。
「4つの対話アイテム」とは、具体的にどのようなものですか?
4つの対話アイテムとは、「いいとこ見っけ」「おたずね」「自分の考え」「おたすけ」です。 「いいとこ見っけ」は、低学年から始められます。基本ですね。「〇〇ちゃんの意見、すごく良いと思います」など、「良いところ」を見つけ、自分なりにその理由も考えています。良いところが飛び交うと、自然と教室に安心感が生まれるんですよね。 「おたずね」は、疑問を持って質問するチカラです。「それってどういう意味ですか?」と聞けるようになることで、探究が深まります。 「自分の考え」は、自分なりの意見や考えを持ち、それを表現する力です。
そして最後が、「おたすけ」です。友だちが言葉に詰まったとき、「〇〇ちゃんの言いたいことってこういうことかな?」とかみ砕いて助ける。あるいは、話し合いのなかで「こういうアイデアはどうかな?」と新しい視点を提案する。この4つが使えるようになると、自分の考えが深まったり広がったりするのです。
この4つは探究科目だけではなく、算数や社会など、あらゆる教科で活用されています。例えば、算数のかけ算で「5×3」という問題が出たとして。ある子が「5個入りの袋が3袋あるから、5と5と5でぜんぶで15個」と説明したら、べつの子が「私もそう思います、とてもわかりやすい説明だと思いました」と「いいとこ見っけ」をする。 その後、だれかが「ほかのやり方があるとしたらどうだろう?」と「おたずね」を投げかけ、「15個入りの袋、1袋だけでも良いかもしれない」とアイデアを足す。
答えは一緒でも、そこに至るまでの考え方はいろいろあるということを、子どもたちは「対話」を通して学んでいます。

こうした取り組みで、子どもたちにどのような変化が見られますか?
とにかく前に出て話をすることや、自分の意見を言うことが当たり前になっています。中和小学校の子どもたちは中学校に進学すると、ほかの小学校とも合併するので少人数からいきなり大人数の環境に変わるんです。 当然「はじめまして」になる同級生も多いなかで、それでも物怖じせず前に出て話をしたり、自分の意見を言ったりすることができる。グループ討議のリーダーになっているのが中和小学校出身の子だったり、生徒会長も中和小学校出身の子だったり。
印象的だったのは、地域の方から「木曜日に学校の図書室を地域に開放してほしい」という要望があったときのことです。先生が朝礼で子どもたちにも意見を聞いたところ、1年生から6年生まで全員が「自分なりの意見」を言うんです。
「僕は賛成です。なぜなら、お昼休みの時間とかに、もし地域の人が来てくれて、将棋を一緒に指すことができたりしたら、すごく楽しいと思うからです」 「私は図書館で静かに本を読むのが好きなので、あんまり地域の人がガサガサ来たりするのはいやです」
自分の意見を言い、相手の意見も聞く。小学校でよくあるのは「良いと思います」「同じです」「僕も同じです」というのが続くパターンですよね。もしくはだれの手も挙がらない。でも中和小学校の生徒たちは普段から「対話」に慣れているから、「質問を聞き、自分なりに考え、自分の言葉が伝える」というのができる。 ちょっとませた男の子なんかは「最近学校のセキュリティとかいろいろ言われてますけど、誰でも入れるようにして大丈夫なんですか?」とむしろ大人に質問する(笑)。
だから「木曜日に学校の図書室を地域に開放してほしい」という議題が深まっていく。子どもたちも大人たちも一緒に考えることができるんです。

4つの対話アイテムは、地域づくりにも応用できそうですね。
まさにそうだと思います。この4つの対話アイテム「いいとこ見っけ」「おたずね」「自分の考え」「おたすけ」は、学校だけではなく、地域づくりにも使えます。
大人の会議でも、発言して終わり、ということが多いですよね。でも「いいとこ見っけ」で相手の意見を認め合い、「おたずね」で疑問を深め、「おたすけ」で新しい視点を加えていけば、より豊かな議論ができます。 実際、地域の課題解決や合意形成の場面で、この4つの対話アイテムが共有されていれば、建設的な話し合いができるようになります。子どもたちがこうしたチカラを身につけて地域に育っていくことは、将来の地域づくりにとっても大きな意味があると思います。
冒頭にお伝えした中和小学校で実施している「中和いきいき学習科」がそのモデルのひとつになるかもしれません。 低学年では「中和いきいき探検隊」として、地域資源であるお宝を探す「いいこと見っけ」をします。中学年になると「中和いきいき新聞記者」となって、見つけたお宝についてのお話を聞く「おたずね」や、それを文章にする「自分の考え」に繋げていきます。 そして高学年では「中和いきいきプロデューサー」として、実際の行動に移して「おたすけ」をしていく。まさにこの営みが「地域づくり」の流れの源流なのではないかと思うのです。
中和小学校で実践している「対話」は、小学校のカリキュラムに留まらない「生きていくこと」や「地域づくり」にも通じるチカラを育むものになっています。

取材・編集:甲田智之

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